H3ロケットの打ち上げは”一般に失敗”だったのか?


3行のまとめ
①今回の件は、ロケットを完璧な状態で打ち上げるために一旦確認するだけなので「中止」と呼ぶのが適切。
②一般的に見れば失敗という言葉を使うのは全くの間違いでもない(と思う)。
③どうして「失敗」ではなく「中止」という言葉が使われるのか、をメディアが解説してくれると嬉しいな。

前書き

2/17に打ち上げ予定だったH3ロケットは、補助ロケットへの着火信号を送る段階で異常を検知し、カウントダウンを過ぎても打ち上げられませんでした。その記者会見にて共同通信 鎮目記者が質問の最後に行った発言が物議を醸しています。以下のようなコメントでした。

JAXA岡田氏「ある種の異常を検知したら止まるようなシステムの中で、安全、健全に止まっているのが今の状況です」

共同通信 鎮目記者「わかりました、それは一般に失敗といいます。ありがとうございまぁーす」

H3ロケット試験機1号機に関する記者会見33分47秒付近

まず先にコメントしておきたいのは、他の記者の方はより正確な報道をするために、今の状況を明確にするための質問などの良い質問をされていました。上記の動画をフルで見ていただければ、それは分かると思います。
上記の発言を基に、「これだからマスコミは……」という意見がSNS等でも見られますが、一人の質問が適切でなかったからと言って業界全体を批判するのはあまり喜ばしくないと考えています。

この記事ではこの発言の是非を問うつもりはあまりなく、宇宙好きが確信をもって「これは失敗ではない」と言っているのは本当にそうなのか?という事を考えてみます。
自分を含めロケットや人工衛星について多少なり知っている人は「これは失敗ではない!」と確信をもって言いたくなりますが、それは一般的な感覚と合致しているのでしょうか。

ロケット打ち上げにおける失敗とは

まずロケットの打ち上げについての明確な失敗と成功の基準を調べましたが、このようなケースを失敗と呼称するのか明確な答えは見つけられませんでした。これは、ロケットの打ち上げの成功と失敗が最終的に衛星を目標の軌道に投入できたかどうかが判断基準となることが多く、天候等で打ち上げが延期されることは良くあることなので、時間を置いて打ち上げられる状況は同様に延期されている状況として扱えるからだと思います。

今回においては、「打ち上げ」はまだ行われていない(打ち上げ準備の途中の段階で止まった)ので、「打ち上げを中止したが、失敗も成功もまだしていない。」というのが、一般的にロケット打ち上げでは言われる言い方になりそうです。

特に今回はH3ロケットとしての打ち上げは初めてながら、先進光学衛星「だいち3号」という衛星を積み込んでいます。この衛星は観測したい時間の関係で打ち上げ時刻は概ね決まるのですが、打ち上げ日の制約はそんなに大きくありません。少しでも失敗する可能性があれば止めて安全に打ち上げる判断はその観点からも適切な判断だったと思います。

ちなみに明確な失敗の例を挙げると、2022年10月に打ち上げたが異常が発生したため積み込んだ衛星ごとロケットを爆破したイプシロンロケット6号機(イプシロンロケット6号機の打上げについて(第一報))などは、衛星もロケットも失い、衛星を軌道に投入することが出来ないことが確定しているため失敗と言えます。

また、今回のような補助ブースターの点火直前の打ち上げ中止は初めてのことではありません。下記に引用させていただいたように、アメリカでも同じような中止は起こっています。また、ここでも「失敗」ではなく「中止」と呼ばれています。

若田さんはブライアン・ダフィー船長に常々「固体ロケットに火がつくまでは、打ち上げられると思うな。その時までは、今日当然打ち上げるんだということを考えない方が良い」と言われていたそうだ。スペースシャトルは、発射6秒前に3つのメインエンジンが点火、そのパワーを確認してからカウントダウンがゼロになり、固体ロケットが点火される。実際、メインエンジン点火後に中止されたことも過去に数回ある。固体ロケット点火まではいつでも発射が中止になる可能性があるのだ。

DSPACE-シャトル打ち上げを確信する瞬間は

このように今回の事象を「失敗」と呼ぶことはほぼ無いため、大手メディアで「打ち上げ失敗!」と大きく報道されると、海外に誤解を与えて将来ロケットを売り込むときのネガティブキャンペーンになる可能性があります。そのためにJAXA等はあくまで中止である、という言葉を使っている訳です。

一般的な失敗とは

[名](スル)物事をやりそこなうこと。方法や目的を誤って良い結果が得られないこと。しくじること。「彼を起用したのは失敗だった」「入学試験に失敗する」「失敗作」

コトバンク-失敗

失敗を調べてみるとこのように説明されていました。

これだけだと一般的な失敗かどうか考えるのは難しいですが、先ほどの動画の質問の中で「意図的なものじゃなくて、止まっちゃったよ、ということは、一般的に失敗じゃないか」とのコメントを鎮目記者はしています。ここから、「意図せず止まった場合には一般的に失敗」という考え方であることが分かります。

ただ今回は異常を検知したら止まるようなシステムとなっていたので、意図して止まったようにも思えます。「一般的な」失敗なので、日常に例えてみます。

A「この時間ならお寿司が半額になっているはずだから買ってきて。」
B「そうだね、この時間ならお寿司は半額になってるはずだから買ってくるよ。」

B「今日は何故かお寿司が半額になってなかったから買ってこなかったよ」
A「お寿司買うの失敗したの!?」

喧嘩になりますね。

このように、やはり質問としては少しずれていたのかな、と思います。

とはいえもっと一般的な失敗の使い方であれば、最初に書いたような目標の達成と言う広い枠組みでなく、

「ロケットを2/17に打ちあげようとしたけど打ちあがらなかったらしいよ」「(2/17の)打ち上げは失敗したんだ」

「あれ、GW実家に帰ってるんじゃなかったの?」「初日に帰ろうと考えてたのに、初日の航空券高すぎて取れなかったから真ん中くらいに帰るつもり」「帰るの失敗してたんだね」

のような「失敗」の使われ方はおかしくないと個人的には思います。

今回の質問では他の記者のレベルが高かったために悪目立ちしてしまっていますが、「一般の人はこれを失敗と呼んでもおかしくない」というところは一理あるかもしれません。その点の誤解を生まないためにも、自戒ですが何故失敗と呼ばないのかもセットで発言したいところです。

まとめ

どうしても騒動になってしまうと強い言葉が聞こえてきてしまいますが、「これは失敗では無く中止だ!メディアの誤り!」という言葉は一般層に対しては失敗を隠すように捉えられてしまうこともあると思います。
ロケットの打ち上げは一大イベントで、打ち上げ時刻も大々的に報道されるために、「最悪数か月ズレても問題はない」ものだと思う人も少ないでしょう。

せっかくの機会なので、正確な情報が広まってくれるとよりいい方向に進んでいくのかなと思います。

再打ち上げが楽しみです!

3行まとめ
①今回の件は、ロケットを完璧な状態で打ち上げるために一旦確認するだけなので「中止」と呼ぶのが適切。
②一般的に見れば失敗という言葉を使うのは全くの間違いでもない(と思う)。
③どうして「失敗」ではなく「中止」という言葉が使われるのか、をメディアが解説してくれると嬉しいな。

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