打ち上げ失敗がいち早く分かる!?H3ロケット打ち上げシークエンスの解説と簡単なロケットのテレメトリの読み方

H3ロケット打ち上げ失敗しましたね!!!(とても悲しい)
本当はもっと楽しい話を色々としたかったのですが、失敗したものはしょうがないのでテレメトリの読み方でも解説してみます。

打ち上げのライブ配信では、打ち上げの映像と共に、今ロケットがどれくらいの速度でどれくらいの高度を飛んでいるかというデータ(テレメトリデータ)が画面に表示されています。今回、このテレメトリを見ることで、ライブ中継している司会の方より先に視聴者が異常に気付き不穏な雰囲気がチャットに漂っていました。

せっかくなので、H3の紹介と共に、どうしてそれが分かったのかを簡単に紹介します。

1. H3ロケットの構成

ロケットがどのように打ちあがるかを知ることで今回の事象についても分かると思うので、この動画を見ながらH3ロケットの打ち上げについて説明します。

まず、打ち上げる衛星のサイズや重さによって同じH3でもいくつかの種類があります。今回の試験機1号機はH3-22Sモデルです。

一番下に付いているのが第一段エンジンLE-9。一番最初に燃焼させるエンジンで、ロケットを宇宙空間まで持ち上げる役目を果たします。その上には大きな液体水素タンクが搭載されています。ロケットの大半はこのエンジンとタンクが占めています。

そして、その横に固体ロケットブースタが搭載されています。これは割と早く燃焼終了して切り離されます。最初に打ち上げ中止になったときに点火しなかったのがこれです。
ちなみに固体と液体で何が違うのかというと、液体は燃料の供給を絞ったり止めることでエンジンをコントロールすることが可能ですが、固体ロケットブースタは点火したら燃焼するだけです。ちょっと違いますが、ガスコンロと花火のようなものだとイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。

そして、その上に第2段エンジンが搭載されています。これは、宇宙に出てから衛星を軌道に投入するために更に加速するために使われます。1段目に比べると小さいですが、これを使うときには1段目のエンジンは切り離しているので、このサイズ感でも加速することができます。

第2段エンジンの上に衛星が搭載され、打ち上げ時に守るためのフェアリングが被せられます

2. ロケットの打ち上げシークエンス

これをどのような順番で使って衛星を地球を回る軌道に載せるかを、実際の順番に従って見ていきます。

まず、第1段のエンジンと固体ブースタに点火してロケットが飛び立ちます。

打ちあがってしばらくすると、固体ブースタが燃焼し終わるので、切り離します。機体を軽くするためです。

宇宙空間まで上がってしまえば空気による損傷も気にしなくて良いため、フェアリングも分離、投棄します。

第1段エンジンの燃料を使い切ると第1段エンジンも分離し、第2段エンジンにより更に加速して軌道まで運びます

十分な速度が確保出来たら、衛星を切り離してミッションコンプリートです!

と言いたいところですが、このままだと2段エンジンも同じ軌道を回り続ける衛星になってしまいます。そのため、逆噴射して速度を落とし、地球に再突入して燃え尽きます。これで、本当にミッション達成です。

3. だいち3号の軌道について

どのような軌道に投入しようとしていたのかを確認しておきます。

だいち3号(ALOS-3)のHPに行くと、軌道が分かりました。色々と書いてますけど、
35日に一回同じ場所を通過して、でも見られる範囲が広いので近いところは3日に一回通るから通常の運用でも実質3日に1回観測できるそうです。ちなみにちょっと横を向くことで最高1日1回観測することも可能とのこと。目標(日本)を見る時間が10:30頃とのこと。
軌道が高度669kmだそうです。

軌道の高度が分かると衛星の速度が分かります。

衛星は勿論地球に向かって落ち続けているのですが、余りにも速いので落ちると同時に地球の丸さで地面から離れていきます。これが丁度いいバランスで釣り合っている時、高度がキープできる訳ですね。

そこから、衛星の秒速Vは以下の式で求められます。
V=(398600(地球の重力による定数)/(6378(地球の半径)+H(高度)))1/2

今回の高度を入れると、秒速7.52km/sと分かります。時速にすると27075km/hくらいです。やば。

4. テレメトリの読み方

こちらが、打ち上げ前の状態です。左から、このようなことが書かれています
VELOCITY [km/h] : 時速
ALTITUDE [m→km] : 機体高度(打ち上がるとkmに切り替わります)
真ん中の数字 : 打ち上げ時刻からの経過時間(マイナスは打ち上げまでの残り時間)
FLIGHT TF1 : 今回のフライトがTest Flight No.1、つまり試験機1号機であることを示しています。
TYPE H3-22S : 先ほど紹介したH3のシリーズの中でどれに当たるかを示しています。
PAYLOAD ALOS-3 : 載っている衛星の名前です。ALOS-3 = だいち3号

せっかくなので、打ち上げの各タイミングでのテレメトリを見てみましょう!

リフトオフ直後。打ち上げ後約19秒の時点です。既に時速343kmに達し、884mも上昇しています。先ほど紹介した1段目のエンジンと固体ブースタが燃焼しているのが分かります。
ちなみにLIFTOFF後に書いてある「MAX Q」は最大動圧点と呼ばれるもので、速度を上げて空気の圧力を一番受けるタイミングだと考えてもらって大体OKです。ある地点を超えると加速しても空気も薄くなっていくので圧力は減少していきます。

テレメトリは非表示のタイミングですが、固体ブースタの切り離しは地上からも確認できます。

打ち上げから約3分半でフェアリング分離のタイミングが来ます。この時には既に速度が時速6800kmを超え、高度も126kmと富士山45個分まで上昇しています。ここまでは順調です。

そして、打ち上げから約5分後に第1段エンジンの燃焼が終了し、第1段エンジンの分離が行われます。ここで、機体速度は時速12700kmを超えています。想像が付かないですね。
ここから、第2段のエンジンによって、先ほど計算した時速27000kmまで一気に加速していきます!!!

そのはずが、第2段エンジン点火の時刻が出ません。ここでちょっと不安がよぎります。まあでも信号を受信しそこねただけで、実際は点火している可能性がまだ残っています!

そこから20秒ほど後のテレメトリがこちら。加速するはずが、むしろ速度が落ちています……。ここで、ロケットについて少し知っている人は察したことでしょう。

なんとタイミングの悪いことに、一旦広報の方の映像に切り替わり、戻ったときのテレメトリがこちら。完全に減速しています。第2段のエンジンが点火しなかったことは明らかです……。チャットにもそのようなコメントが出てきます。

そして、ミッションの成功の見込みが無いと判断され、「指令破壊」が送信されてロケットは破壊されました。これは爆破するのではなく、基本的には燃料タンクを壊してそのまま地球に落ちてくるようにする措置です。
これをやらないと予期しないタイミングで地球に向かってロケットが噴射していくようなことが起こる可能性が残ってしまうので、失敗と判断された場合には必ず行われることになっています。

本当の本当の本当に残念ですが、今回のこのテレメトリの読み方を活かして次の打ち上げを楽しんでくれる人が一人でもいてくれたら少しだけ嬉しいです。

次は成功してくれ!頼む!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。